靴家さちこ
サンタクロース村メルマガ読者の皆様、Moi!フィンランド在住フリーライターの靴家さちこです。フィンランドではサマータイムが始まり、日本との時間差も6時間になりました。
雪も道路脇に残っているだけで、あとはとけるのを待つばかりです。と、そんな事を言っているとすぐにでも雪が降ってきそうですが(そういう国です)。日本はもう桜も咲いて、新学期も間近でしょうか?というわけで今回は、フィンランドから教育の話題をお届けします。
北欧フィンランドといえば、2003年に発表されたPISA(OECD加盟国他世界30か国以上の15歳を対象に実施される学力テスト)で世界一の座についた「教育大国」。3年おきに開催されるこのテストで、フィンランドは2006年にも世界一、2009年も好成績を打ち出し、世界中から注目を集めました。
ちょうど2004年からフィンランドに住むようになった私は、当時の興奮をまだ覚えています。「世界一」で注目されていた当時のフィンランドでは、人口530万人(現在550万人)の小国という認識が覆り、「教育だけは良い」と人々が胸を張るようになりました。
日本でもフィンランド式の教育メソッドが流行り、多くの教育関係者が視察に押しかけましたが、2012年以降は日本も含むアジア勢が強く、かつて「教育大国」と冠されたフィンランドは「欧州一の」という但し書きが付くようになりました。
それだけに、近年PISAでふるわなくなり、不景気とも重なって何か国を元気にする特効薬は無いかしらと気をもんでいたら、今年2016年から全国の公立小学校で「プログラミング教育」が必修化されるというではありませんか!新学期は8月からなので、まだこれからですが、この取り組みは英国やお隣のエストニアが先に着手しているものの、世界的には先手を打つことになるので、大いに注目されています。これは10年に1度の教育カリキュラムの改定に伴うもので、フィンランド教育の行く先を追う教育関係者からも熱い視線が注がれています。
それにしても何故「プログラミング教育」をするのでしょうか?その答えを、フィンランド全土で無料の親子プログラミング教室「コーディコウル(Koodikoulu)」を開催しているICT企業、リアクター(Reaktor)のユハ・パーナネンさんに伺いました。
パーナネンさんは、かつて4歳の娘さんにプログラミングを教えた経験を”Girls Can’t Code (女の子はプログラミングができない)"というセンセーショナルなタイトルのブログで発表し、リアクター社内でも親子プログラミングクラブを主催したことから、コーディコウルの祖と呼ばれている人です。
そのパーナネンさんに「何故今年からプログラミング教育が始まるのか」という疑問をぶつけみたところ、パーナネンさんは、「もちろん全ての人がプログラマーになるわけではないけれど」と前置きで「デジタル化が進み、ソフトウェア製品に囲まれて暮らす未来では、その仕組みを少しでも分かっている方が良い」とのこと。
また、プログラミングを通して物事を構築し、分解する力を養えば、一般的なロジカルシンキング(論理的思考)の力を伸ばすこともできるのだそうです。さらにプログラミング教育をきっかけにスキルを伸ばせば、莫大な利益を紡ぎ出すソフトウェアやアプリケーションの会社を立ち上げることだって夢では無い、とのことでした。
さらにコーディコウルにはニーニスト大統領も視察し、自らプログラミングを体験したことがあるのですが、大統領はプログラミングのことを「未来の国民的スキル」だと断じ、確信の表情を見せました。
本当にそうですよね。近未来のフィンランドに、世界的な規模のソフトウェアやアプリメーカーがいくつもできたとしたら、どれだけ多くの裕福な納税者が増え、国が豊かになることでしょう!
「でもフィンランドの教育って、本来、落ちこぼれを作らない、基礎を固めるものなのでは?」という懸念も聞きます。しかし新指導要綱によると、1、2年生ではまだパソコンを使って学ぶのではなく、パソコンに正確な指示を与えられるよう、遊びを通して指示伝達の練習をするだけで、プログラミング指導は算数や図工の授業に組み込まれるので、授業時間も増えません。
学校の先生方も、高齢のベテラン先生は1、2年生につき、オンライン教室や自主学習で十分に備えた若い先生方が、スクラッチ(Scratch)などの小学生の教育用プログラミング環境で指導に当たります。さらに言えば、正式にプログラミング用語を習い始めるのも中学に入ってからなので、学校は本当にきっかけを与える場という位置づけです。
これを聞いて、IT関係がバリバリ得意ではない私も安心しました。
そんなわけで今年はプログラミング教育の記事をあちこちで書いております が、このきっかけは、昨年の秋、日本から11歳の息子さんを連れてフィンランドのプログラミング教育を視察にいらしたエドゥケーションデザイナーの岡本美奈さんが与えて下さいました。
当時、私が住む、このトゥースラでは「プログラミング教育なんて本当に始まるのかしら」というくらいに情報が無かったのですが、既に首都圏や地方の大都市では大学やボランティアが小中学生向けに開催しているプログラミング教室やクラブがありました。
大学時代にフィンランド教育に興味を持ち、独学で知識を蓄え、息子さんをフィンランドの小学校に体験入学させたこともある岡本さんは、視察の後、教えている内容は日本のプログラミング教室とは変わらないものの、「英語でプログラミングを小学生の段階でできる子供がいること」や「子供達の授業時の静かさ」に驚き、「手や口を出しすぎない先生のアプローチはフィンランドらしい」と分析されていました。
さて、やっと今年の1月から国営放送の子供番組でもプログラミングのコーナーも登場し、プログラミング教育も全国レベルで盛り上がって参りました。
フィンランドだけではありません。日本にも支社があるリアクターでは、今年の5月に日本で初のコーディコウルを開催します。ご興味のある方はいち早く申し込んで、フィンランドらしいゆるやかで伸びやかな親子プログラミング教室を是非体験してみて下さい。それでは皆様、Hyvää päivän jatkoa (引き続き良い一日を)!
参考URL:リアクター・ジャパンhttp://reaktor.co.jp/