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サンタクロース村通信

フィンランド伝統の錫占い

馬のひづめで新年が見える!
フィンランド伝統の錫占い

サンタクロース村メールマガジン読者の皆様、Hyvää uutta vuotta(ヒュヴァー・ウウッタ・ヴオッタ)、明けましておめでとうございます!
フィンランド在住フリーライターの靴家さちこです。

フィンランドは15年ぶりの暖冬で、昨年は12月に入っても雪が降らず、まさかのMusta joulu(黒いクリスマス)」を迎えました。1月中旬の今になってようやく雪が降り、南部でも-10度前後と冬らしい気候に見舞われております。
寒いのとスキーが苦手で、雪かきが面倒くさいインドア派の私などはつい「このまま春まで降らなくてもいいのでは」などと、密かに願ってしまったりもするのですが、
「極夜」と呼ばれる白夜とは真逆の暗闇に光をもたらす雪は、地元のフィンランド人にとっては切実に待たれる冬の風物詩。
というわけで、このところ、子ども達だけでなく大人同士でも「やっと降ったね」と言うのがあいさつ代わりとなっております。

さて今回は、新年にちなんで、フィンランド伝統の「ティナンヴァラミネン(Tinan valaminen)」という錫(すず)占いをご紹介しましょう。
日本では神社のおみくじで新年の運を占いますが、フィンランドでは大晦日に馬の蹄(ひづめ)型の錫で翌年の運勢を占う伝統があるのです。
無口でシャイなフィンランド人は日本人と性格が似ているとよく言われますが、このような伝統文化においても似たような感覚があるのですね。
今年は日本が午年ということもあって、ますます近さを感じてしまいました。

占い用の馬蹄(ばてい)型の錫(約4センチ大)が売りに出されるのは、クリスマスの買い出しが大詰めを迎えた12月下旬です。
クリスマスという最も重要な祝日を終えたフィンランド人は、大晦日には1週間ほど食べ続けるクリスマス料理もやっと尽き、手軽なソーセージやポテトサラダなどで夕食を済ませ、真夜中の打ち上げ花火を楽しみに夜更かしをします。
錫占いは、その花火を待つ間に家族や友人が集まってするのに最適なイベントです。
占い方は至って簡単。
錫を大きなひしゃくに1つずつ乗せ、暖炉か台所の電気コンロであぶって溶かし、手早く水を張ったバケツの中にじゅじゅっと落として冷やし固めるだけです。
1人ずつ来る年の幸運を念じながら順番に落とし、変形した錫をバケツの中から拾い上げると、部屋の灯りを消して、ろうそくや懐中電灯で錫の形の影を壁に投影し、それぞれの形に解釈を与えます。

その解釈の仕方というのが実に適当でして、「僕のはドナルドダックだよ」「それじゃ、来年はドナルドダックの漫画がたくさんもらえるね」
「私のはドラゴンみたい」「あら怖い、来年は怒りっぽくなるんじゃない」などと、言ってみればお互いにただ思いつきを言っているだけというレベルです。
使用済みの錫は、美しいものやラッキーな形であれば大切に取っておいても良いそうですが、まず大概の人があっさりゴミ箱に捨ててしまいます。

このように、吉凶がはっきりする日本のおみくじほど意味深ではなく、気軽にワイワイ占い合ってしまうところがなんともフィンランド共和国的とも言えるのですが、
ちゃんとしたお告げが書かれている占いに慣れている日本人の私としては物足りないというのが正直なところです。
それにしても、このフィンランド人の伝統に対するあっさりした態度は、
1809年までスウェーデンに、1917年までにはロシアから統治され続けてきた新しい国の証ではないかと思います。
生誕100年足らずの新しい国では、過去は統治下時代の暗い歴史をほうふつさせるので過去を引きずるような伝統行事はあまり重要視されないのでしょう。

欧州では「幸運の象徴」とされる馬蹄を使うこの占いは、
19世紀にスウェーデンから伝わりブルジョワジーの間で広まったのですが、
時が経つにつれその起源である中央ヨーロッパでは忘れ去られ、湾海とロシアとの国境に囲まれたフィンランドに取り残されたのだそうです。
そのようないきさつにも、
欧州という大きな大陸上での人々や文化の交流に思いを馳せるとともに、
持ち込まれて置き去りにされた伝統文化があるというフィンランドの「陸の孤島」ぶりにもまた島国の日本と近しいものを感じてしまうのは私だけでしょうか。

ちなみに今年は、
花火を上げに親戚の家に行ったり来たりと慌ただしく動き回っているうちに、あんなに楽しみにしていた錫占いを――家族みんなで忘れてしまいました。
2014年の年末こそは!と今からカレンダーにマークしてあります。
こんな私ですが、今年もどうぞよろしくお願いいたしますm(__)m

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