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サンタクロース村通信

フィンランドの「大学入学資格試験」と「大学入試」

サンタクロース村メルマガ読者の皆様、モイ!フィンランド在住フリーライターの靴家さちこです。
日本ではもう、桜も咲いてお花見の季節ですね!こちらフィンランドでは、恒例の「タカタルヴィ(Takatalvi:冬戻りと訳したらいいでしょうか、春先に冬の気候に逆戻りする現象)」でまた雪が降り、どんよりとしたお天気です。
図1

↑3月末。例年であれば別に雪が残っていても不思議ではないのですが、今年は早めに雪解けしたと浮かれていたら、不意を突かれました。

さて今回はそんなフィンランドから「大学入学資格試験」と「大学入試試験」という、ちょっとシビアな話題をお届けします。


「お弁当を持って6時間!?」
「試験範囲は大学の教科書!?」
図2 (2)
3月はニュースで、フィンランド各地の高校生たちが「大学入学資格試験」を受験する様子が報じられました。このテストは、高校の卒業試験も兼ねています。かれこれ11年も住んでいるのでもういい加減驚かないようにしたいのですが、この光景には毎年「おお!」と食い入ります。

と申しますのも、この試験会場が高校の体育館やイベントホールなどなので、ニュースでは体育館一杯に並べられた机にひしめきあう受験生の映像が流れます。試験時間は1科目 6 時間にも及ぶもので、受験生は各自の判断で試験時間中に休憩や昼食も取らなくてはなりません。そんなわけで、映像の一部にはリンゴやサンドイッチを頬張っている学生の姿もちらほら。

試験期問は3 週間1 日おきに実施され、試験は1 日1 教科で午前9 時から始まり、遅刻は許されません。持ち物はもちろん携帯電話まで全てチェックされ、バッグ類の持ち込みは禁止です。(数学の試験の際には、指定された電卓は持ち込みOK)試験が開始すると、正午前の退出は禁止で、トイレに行く時にはなんとスタッフが同行するのだそうです。

この試験は、1853年に始まったヘルシンキ大学の入学試験が変化してきたもので、大学志望者は“連続する3 回の実施期間内に”、必修科目の母国語、それ以外に第2 公用語、外国語、数学、人文科学、歴史、心理学、哲学、宗教、生物、物理、化学、地理や公民などの中からから選択し、最低4科目に合格しなければなりません。受験生は志望大学や得意分野に合わせて科目選び、秋に1科目、春に2科目というように受験していきます。

かくして必修の母国語を含む4科目以上をクリアすると、7 レベルのグレードが記された証明書が発行されます。不合格の場合、以後春秋連続する3 回の試験期間の中で2 回再受験することができます。この期間に合格ができない場合は、はじめからやり直しになります。また、全て合格した後でも、難関大学の受験に向けてより良いスコアを目指す場合には再受験をすることもできます。
図3
↑高校の卒業式の様子。初めて見た時には「何の船乗りの儀式だろう?」と思いました。

このようにして3回もの受験期間を乗り越えた試験の合格者は、無事高校を卒業することができ、卒業式にはフィンランド社会のステイタスである白い学生帽子と大学入学試験証明書が授与されます。卒業生がいる家庭では、親戚一同を集めて盛大なパーティーが催されます。18歳で成人するこの国では、若者が大人社会に仲間入りする大切な節目です。

図4 (2)
というわけで、その後男子には徴兵制による兵役が(女子は志願制)、兵役がない女子がすぐに進学を志す場合には、5~6月に実施される「大学入試」が待ち受けています。兵役がある男子はしかたないとして、女子ならが誰でも卒業後すぐに大学入試に向かうのかというと、まずはアルバイトなどで学資を捻出した後に受ける人もいれば、これまでのテスト地獄の労をねぎらい、一旦海外旅行や留学に出かける人もいるので、大学入学時の年齢はまちまちです。このように日本のように「現役」とか「浪人」という区分が無い分、慌てる必要は無いのですが、その代わりに「全て自分で決めなければならない」という責任の重みに、押しつぶされそうになって考え、悩みぬく若者の姿も目にします。

大学入試は、実際に志望学部の講義で使われる専門書が数冊試験範囲に指定され、受験生はそれらの書籍を購入、あるいはインターネットでダウンロードして受験勉強に臨みます。多くの場合はその試験の結果が合否を決めますが、学部によっては入試よりも大学資格試験の成績を重視するところもあります。難関大学の医学、法学、商学部向けには予備校も存在し、3割前後の学生が受講するそうです。入試は人気学部では2週間にも及ぶことがあり、ストレスから泣き出す受験生もいるのだとか。怖いですねぇ。
図5
このように日本では「競争が無い」「落ちこぼれを作らない」と温かいまなざしが向けられるフィンランドの教育ですが、既に長男が小学校の高学年になるにつれテストの数が増え、その解答欄の余白の大きさもどんどん大きくなってきているその先には――このような大難関が待ち受けているわけですね。今年はとりわけ、電車など公共交通機関の中で予備校の宣伝ポスターを多く見かけました。息子たちもいずれお世話になるのでしょうか?この先も、まだまだ「フィンランドの教育事情」からは目が離せません。

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