※① スーパーマーケットでTETする9年生の様子を伝える学校のブログ記事
靴家さちこ
サンタクロース村メルマガ読者の皆様、Moi!フィンランド在住ライターの靴家さちこです。6月です!夏休みが始まりました!私も学生なので子ども達と8月初旬まで夏休み。気になるお天気ですが、なんと5月の中旬から20℃超えが始まり、例年より一足先に夏みたいな気候になりました。「これは何の予兆?」「いいお天気先取りして6月がこのままで済むはずがない」などいろいろなフィンランド人の声が聞こえる中、今回は、今年中学2年生(こちらでは8年生)だった長男の学校生活をふり返って、春に経験した職業体験期間、その名もTET(テットゥ)について書いてみたいと思います。
かつて私がフィンランドで初めて見たTET期間中の中学生は、スーパーマーケットにいました。店員さんと同じ制服を着て、神妙な顔をしてレタスを段ボールから出しては売り場に並べている男の子たち。こんなに若いのにもう働いているの?!学校は?と驚いていると、一人どころかもう一人あらわれて、2人そろうと恥ずかしそうにクスクス笑って冗談を言い合ったりしています。教育レベルが高い、高学歴が多いといわれるフィンランドでも高校進学率は50%ぐらいで、残りの50%は職業訓練校だと聞いていましたが、就職組もいるのかと思っていたら、それが8年生で経験するTETだったというわけです。
TETとは、Työelämään tutustuminen(直訳:職業人生に慣れ親しむこと)の略で、学校によっては7年生から始まるところもありますが、基本的には8年生で1週間、9年生では1~2週間、高校生は学校に寄りますが約1週間に渡って実施されるものです。長男の学校では7年生の時に、家の手伝いをする課題が出て、引っ越しの手伝いに15ユーロの給料を払いました。学校でも給食室で働く日があり、無給で働かされたと長男はぶつぶつ言っておりましたが。
さて8年生になると、いよいよ本格的で、就業先も自分で見つけてこなくてはなりません。就業先は、スーパーマーケットが人気のようですが、保育園もかなり人気です。次男がお世話になっていた保育園でも、TETに来ていたお兄さんは子ども達のスーパーヒーローで、一生懸命遊んでくれましたし、私がラヒホイタヤ養成コースの研修で通っていた保育園にも、8年生の女の子が子ども達のお世話をしていて、大人顔負けの仕事をしていました。
※② ヌルミヤルヴィ自治体で、地元の新聞社でTET体験をする15歳の少年。意識高そうですね
長男がTETの申込用紙に記入する様子を見ていると、自分自身の就活時代と重なってしまい、私の方がドキドキしました。長男の第一希望はスーパーマーケット。理由は、スーパーマーケットが自分の日常生活で最もなじみのある職場であり、近所で通いやすいからとのことでした。一番近くにあるスーパーマーケットは、今年はTETの受け入れはしないと断られましたが、2軒目ですんなり決定。始業時間は10時で一日6時間の職業体験をさせてもらえるとのことで、「学校よりも朝が楽」と満足していました。長男の友達も最寄りのスーパー、もう一人は親が自営業なので家業の手伝いをすることに決めたそうです。
かくしてその一週間が始まりました。初日は時間に間に合って着いたか気になって携帯からメッセージを送りました。自分の子供がお世話になる場所ですし、日本のお母さんとしては菓子折りの一つでも持って担当者にご挨拶をしたいところですが、長男からNGが出てしまいました。なんとか理由をつけてスーパーの制服姿の息子をひとめ見たいと思っていたら、都合よくサラダ油を切らしてしまったので、わざわざそのスーパーに乗りこんで行きました。昼休み後でガラガラの店内でサラダ油を持ってうろうろしていると、男の子の声がして、同じくTET期間中の男の子と談笑する長男を目撃しました。
※③ 14~17歳の若者に夏のアルバイトを募集する記事
ブラックスーパーでめちゃめちゃ働かせられていたらどうしようとか、かつて目撃したTETの少年たちのようにこわごわとレタスを並べているのかと思っていたら、就業4日目にして職場に馴染み切った我が子がいました。っていうか、もっと緊張しろ!とも思ったのですが、同僚の子に挨拶をして「この子はちゃんと役に立っていますか?」と聞いたら「はい」と答えていたので、きっとそうだったのでしょう。怪しいサラダ油を抱えたおばさんは、レジで支払いを済ませると風のように消えて行きました。
それにしてもあのリラックスしきった様子といったら……せっかくの職業体験期間だというのに、世間を甘く見てしまったりしないかなと気になって、後日「TET期間中に何を学んだのか」と長男に聞いてみました。すると「月曜日の食料品は週末から同じものが陳列されているだけだから、買わない事」「この仕事で大事なのは、陳列棚にできる限りたくさんの商品が並んでいるように見せること」などと、なかなか業界人らしいことを言うではありませんか。さらに新しく身に付けた技量の一つは「コーヒーを飲むこと」だそうで、休憩時間の過ごし方もフィンランド流を身に付けたようです。
TET効果はそれだけでは無かったようです。長男とそのクラスメイトの間では、夏のアルバイトの話題でもちきりになりました。お金を稼ぐことにより深い興味がわいたようなのです。長男も他のスーパーマーケットにまた申し込みをしましたが、そこは通らず、今度は親が自営業を営むクラスメイトから仕事をもらってこようと交渉しています。お勉強も忘れずに頑張って!と思いつつも、社会参加にも意欲的になったのもまた喜ばしいこと。そんな長男に「Hyvää työtä(ヒュヴァー・トゥヨタ=よく頑張りました)!」と言ってあげたいです。
参考画像サイト
※① ハカラハデン学校公式ウェブサイト https://hakalahdenkoulu.wordpress.com/2016/11/18/tyoelamaan-tutustuminen/ ※② ヌルミヤルヴィ新聞の記事 https://hakalahdenkoulu.wordpress.com/2016/11/18/tyoelamaan-tutustuminen/ ※③ 量販店トックマンのウェブサイト http://news.cision.com/fi/tokmanni-group-oyj/r/14-17-vuotias-nuori–tutustu-tyoelamaan-ja-tienaa-,c2388751