靴家さちこ
サンタクロース村メルマガ読者の皆様、Moi!フィンランド在住フリーライターの靴家さちこです。残雪もほとんど消え、18時を過ぎても「もう寝ようなんて甘い!」と言わんばかりの陽光が差し込んで来る4月末になりました。が、一部の地方では、地面が真っ白になるまで雪が降りました。幸い私が住むトゥースラではみぞれで済みましたが、この時期スノータイヤの装着は禁止されているので、危うく外出の予定をキャンセルするところでした。本当に油断は禁物です!!というわけで今回は、気を取り直してヘルシンキ発のムーミンの話題をお届けします。
フィンランドを旅するなら、「ムーミンにも会いたい!」と思いませんか?しかし本当に動く着ぐるみのムーミンと触れ合いたいのなら、ヘルシンキから西に200キロも離れたナーンタリの「ムーミンワールド」か、フィンランドとスウェーデンとつなぐフェリーの「シリアライン」乗るぐらいしか手段がありません。しかもいずれもホリデーシーズン限定で、子供連れでないとちょっとハードルが高いイベントです。美術館も中部タンペレの「ムーミン美術館」まで、ちょっと遠征しないといけません。

<写真左>ウラリンナ通りのアトリエで制作に励むトーベ。ここでほとんどのムーミンの物語が生まれました © Per Olov Jansson
<写真右>左:トーベ・ヤンソンと右:グラフィックデザイナーであり、トーベの生涯のパートナーでもあるトゥーリッキ・ピエティラ。彼女はムーミンの物語の中ではトゥーティッキー(おしゃまさん)のモデルになっている © Per Olov Jansson
一方、ムーミンの原作者トーベ・ヤンソンの軌跡をたどるのであれば、彼女が生まれたヘルシンキのカタヤノッカ地区にある「トーベ・ヤンソン公園」や、ウランリンナン通りの「元アトリエ」などがあります。ここは今でも一般人が住むアパートなので中には入れませんが、玄関脇の壁にはトーベの父が制作したレリーフが飾られています。
そこまで聞いて「えええ、それぐらいしかないの?」と驚く皆様に、朗報です!2015年の秋にオープンしたばかりのヘルシンキアート美術館(HAM)にはなんと、フィンランドでも大変希少なムーミンアートが展示されているのです。
この美術館で無料公開されている『The Tove Gallery(トーベ・ヤンソン展)』では、トーベの可愛いイラストや絵画と、かつて国立博物館近くのスウェーデン系フィンランド人向けの労働者学校のロビーに飾られていた、かの有名な『Party in the City』と『Party in the Countryside』という2枚の大きなフレスコ画が展示されているのです。童話作家のイメージが強いトーベですが、フィンランドでは優れた画家としてもよく知られているので、美術館のスタッフに「ムーミンの展示はどこですか?」と聞いたら、「トーベ・ヤンソンの展示ですよ」と、たしなめられてしまうかもしれませんのでご注意くださいね。

『Party in the City』、フィンランド語では『Juhulat kaupungissa(ユフラット・カウプンギッサ)』 © Tove Janssonin kuolinpesä. Kuva: HAM / Hanna Kukorelli

Party in the Countryside』、フィンランド語では『Juhulat maalla(ユフラット・マーッラ)』 © Tove Janssonin kuolinpesä. Kuva: HAM / Hanna Kukorelli
さて、この2枚の大作は戦後間もない1947年に制作されました。2枚のうち『Party in the City』には華やかな晩餐会の様子が、『Party in the Countryside』には、田舎の屋外で音楽を奏でる雅な人達が描かれています。晩餐会に描かれている、若干ふてくされてタバコを吸っている女性は、実際にヘビースモーカーとしても知られるトーベ自身だと言われています。またどちらの絵にも、ムーミンらしき小さな白い生きものもさりげなく描かれていますので、お見逃しなく!
ところで、スウェーデン系フィンランド人向けの労働者学校と聞いて「なにそれ?」と思われた人は鋭いです。そこは現在でも普通に授業が行われているいわゆる“学校”ですので、一般の人は中には入れません。ですので美術館に移される前のこの学校は、どこから聞きつけたのか、これらの作品を一目拝みに、日本人観光客が絶え間なく詣でに来る知る人ぞ知るムーミンファンの隠れ観光名所でした。

『Party in the Countryside』を製作中のトーベ。このフレスコ画はもともとヘルシンキ市庁の中にあるレストランの壁用に受注を受けて制作されたものでした © Helsingin kaupunginmuseo / Foto Roos

ヘルシンキ市庁のレストランの壁に飾られていたフレスコ画。 この2つの大作は、後にスウェーデン系フィンランド人向けの労働者学校に移設された © Helsingin kaupunginmuseo / Foto Roos
というわけで、2016年1月から常設が始まったこのトーベ・ヤンソン展は、観光客にしろ、ヘルシンキ市民にしろ、わざわざタンペレまでやナーンタリまで行かなくても、”無料で”ムーミンの世界が拝めるようになった、大変太っ腹なムーミンスポットです。こんな大作を観たら、「ヘルシンキでムーミンに会ってきたよ!」と胸を張って自慢してもいいでしょう。
このヘルシンキアート美術館「HAM」は、トーベ・ヤンソン展以外の季節限定の特別展も観る場合には、大人の入場料は10ユーロ、18歳以下の子供はどのエリアでも入場無料です。ショップや絵画の体験ワークショップも入れて総面積3000㎡のコンパクトな設計の空間は、実に手軽に観て周れますので、是非ヘルシンキ旅行の際には周遊コースに加えてみて下さい。それでは皆様、Hyvää päivän jatkoa (引き続き良い一日を)!
■トーベ・ヤンソン公園
住所:Tove Janssonin Puisto, HELSINKI
■トーベ・ヤンソンのアトリエ跡
住所:Ullanlinnakatu 1, 00130 HELSINKI
■Helsinki Art Museum “HAM”
住所:Eteläinen Rautatiekatu 8, 00100 Helsinki
電話:+358 9 310 1051
時間:火~日曜11:00~19:00
定休日:月曜日
アクセス:24番バスPohj.Rautatiekatu(1273)停車場下車100メートル
入場料:無料、特別展については、大人10ユーロ
(割引対象者は8ユーロ)18歳以下の子供は全て無料