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サンタクロース村通信

「サウナ―」って?「整う」って  フィンランド視点で見る日本のサウナブーム

5靴家さちこ

サンタクロース村メルマガ読者の皆様、Moi!フィンランド在住ライターの靴家さちこです。5月に入ってやっと外気が15度の日が出てきました。私はもう「何が春だよ」という境地に達しているのですが、周りのフィンランド人は「一体何やってんのかしらねぇ?」「今日も曇り?」といら立ちが隠し切れない様子。そのえらい剣幕はさておき、なになに日本ではもう30度超えの夏日があったですって?なんてビールが美味しそうな……と、日本という名の遠くの芝生をふりむけば……なんとフィンランドサウナがブームなようですね?今回は在住14年にして、今さらながら「公共サウナ」についてお伝えします。

①2016年3月から始まった「ヘルシンキサウナデー」に集う人々。公共サウナはもちろんのこと自宅のサウナも開放してサウナ好きが交流し合えるイベント(Eetu Ahanen / Visit Helsinki)

まず、フィンランドにおける「公共サウナ」の位置づけなのですが、これを最もよく説明できるのが日本の「銭湯」だと思います。読者の皆さんはよく銭湯に行かれますか?お風呂なら毎日入るけど、銭湯まではねぇ……という感じの方が大半ではないでしょうか?実はフィンランドのサウナも同じような感じです。「人の集まるところには必ずある」と言われているサウナですが、核家族化が進み、薪サウナが電気サウナに進化し、集合住宅にもサウナが設置されるようになった現代では、公共サウナがあるヘルシンキの一部の地域やサウナ文化が根強い地方でもない限り、赤の他人とサウナに入るという機会はなかなかありません。スパリゾートや公共プールにもサウナはありますが、泳ぐことがメインでサウナはおまけなので、人々は簡単に済ませてさっさと出ていってしまいます。

そんな近所に公共サウナがなく、強いサウナ伝統もないトゥースラ在住の私が、サウナに入るために一路ヘルシンキを目指したのは去年の暮れのこと。日本からフィンランドの公共サウナ体験をしにきた「サウナ男子」さんという方にヘルシンキの公共サウナをご案内しながら、自分もちゃっかりヘルシンキの公共サウナデビューを果たしてしまいました。

6②薪サウナとスモークサウナとおしゃれなテラス付きのレストランバーも備えた「Löyly,(ロウリュ)」デザインサウナ

まず目指したのは、2016年にオープンしたばかりの「Löyly(ロウリュ)」。日本のスーパー銭湯ならぬ、スーパーサウナという位置づけでしょうか。建築の国であるフィンランドらしく、外観もインテリアもフィンランドの木材にこだわったデザインが施されています。サウナ自体は奇をてらうことはせず、おしゃれではありながらも、薪サウナとスモークサウナの2種類と、フィンランド古来の伝統サウナに的を絞っています。ヘルシンキでも消えゆく公共サウナ文化は惜しまれており、海外からの観光客の「フィンランドサウナ」への期待に応えるのがホテルの備え付けのサウナぐらいしかないことからも、このような大きなサウナ施設の設営は必須だと考えられてきました。

ロウリュででは、「サウナ男子」さんも取材も兼ねての入浴でしたが、同じく日本から「ひつじ」さんとおっしゃるイラストレーターの方も合流されて、男女混浴の大きな薪サウナへGO。私は、そもそもフィンランドサウナは男女別浴であること、こちらの施設は海外からの観光客も視座にいれて水着着用を許可しているが、本来サウナは一糸まとわず入るものだとお二人に説明しました。さらにいかにフィンランドがサウナ発祥の地とはいえ、公共サウナ文化が身近でない人々は、サウナで見知らぬ人とのコミュニケーションを楽しむなどということはしない――なんてったってフィンランド人は欧州の中でもシャイで寡黙な人達なのだからとつい本当のことを告げてしまうと、サウナ男子さんはしばしうなだれるほどショックを受けておられました。

3③フィンランド人なら誰でもやるわけでは無いアヴァント。冷たいというより痛い。後でその痛みが癒えるプロセスがハイになるほど気持ちいい(Eetu Ahanen / Visit Helsinki)

お二人にとってさらに衝撃的だったと思われるのは、フィンランドが盛んな一部の地域を抜かして特に南部在住のフィンランド人の中には、「avantouinti(アヴァンウインティ))と呼ばれる湖の氷に穴をあけて泳ぐ寒中水泳を経験したことがない、そんなの恐ろしくてやりたくもない、という人達も実は相当数いるとうこと、さらにはサウナ自体も暗いところや狭い場所が苦手な人や汗をかくのが嫌いな人は、いくらフィンランド人でもサウナが好きではないという話でした。とどめにせっかくサウナ付きの家に住んでおきながら、サウナが物置代わりという残念な家庭も少なくはないという夢を壊すような話までした上で、「飛び込まないという選択肢はありません」というサウナ男子さんの一言に背中を押され、この取材が終わったらすぐまた飛行機にのるというひつじさんと一緒に荒れ狂うヘルシンキ湾に飛び込みました。(サウナ男子さんはその後続きました)

1④1928年からの伝統を持つ残り少ないヘルシンキの公共サウナ「コティハリユ」(Jussi Hellsten / Visit Helsinki)

その後2か所他のヘルシンキの公共サウナも試しに行ってみたのですが、このように日本人と連れ立ってサウナ巡りをしてみますと、かなりの確率でフィンランド人が寄ってくることがわかりました。明らかにサウナ初心者と思しき海外からの客人に、サウナの主のようなフィンランド人がひしゃくでサウナストーンに水をかけるタイミングやら、ほどよい温度やら何かとお世話を焼きたがるのです。

4⑤このサウナストーンに水をかけて出てくる蒸気のことを「ロウリュ」という。フィンランドサウナの肝心かなめなので水をかける前に周りの人に「かけてもいいですか?」と一言きくのがマナー (Eetu Ahanen / Visit Helsinki)

後日この日本人客たちとの初公共サウナ体験を、周囲のフィンランド人とも共有しました。まず最近日本ではサウナ好きが高じて熱狂サウナファンのような人のことを「サウナー」と言うのだと教えてあげると「へー」。さらに「サウナで火照った体を冷水で冷まし、椅子にじーっと座ってトランス状態でくつろぐことを『整う』というのだと教えてあげると「何それ」と目がぱちくり。さらに日本では本場フィンランドでのサウナ入浴についてあれこれ細かい言説が流れていてソーシャルメディアでは何が正当か邪道か論争が起こるとまで伝えると「あらまぁ」という具合に。日本とフィンランドはまた新たに「サウナ」という面白いつながりを見つけたようですね。

でももう夏みたいな天気だからサウナなんて熱くて入れないかも、と思っていらっしゃる日本の皆様、そんなことありませんよ。夏だからこそサウナで火照った体を冷ます冷水が、サウナ上がりのビールがまたたまらないんです。それにビール飲んでからまたサウナに入ったっていいんです。6月に白夜が来れば、フィンランドではサマーコテージで毎日サウナ三昧です。水風呂はもちろん湖です。凍ってる湖は嫌でも、これなら南部のフィンランド人だってやりますよ。それでは皆様、Hyvää löylyä(ヒュヴァー・ロウリュア=良い湯気を)!

2⑥いそいそと集合住宅の共同サウナに向かう人達。これお尻を隠しなさい!(Julius Konttinen / Visit Helsinki)

【参考URL】

サウナ男子さん取材分の記事(朝日新聞デジタル)↓

http://www.asahi.com/and_M/articles/SDI2018012316921.html

 

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