靴家さちこ
サンタクロース村メルマガ読者の皆様、Moi!フィンランド在住ライターの靴家さちこです。フィンランド語では「夏の月」と呼ばれる6月ですが、5月に夏のようなお天気を先取りしてしまったせいか、日本の梅雨と台風を足して2で割って冷したような天気が続きました。もうすぐ迎える白夜を祝う夏至祭については、天気予報では「大雨か猛暑」と予報されています。なんだかとても大雑把な予想です!というわけで今回は、お天気とは何も関係もない、フィンランドの「ネウボラ」をご紹介します。 「ネウボラ(neuvola)」とは、妊娠期から就学前までの子どもの健やかな成長と発達の支援と、母親と父親、そして、家族全員の心身の継続的な健康サポートを目的とする公営のサポートセンターで、フィンランド全土に約850カ所あり、各自治体の保健センター※の中に設置されています。(※テルヴェウスケスクスと呼ばれ、基礎的な総合医療が提供され、「病院」を意味するサイラーラでは、より専門的な医療が施されます。)
妊娠期間中には6~11回の健診、産後も子どもが小学校に入学するまでの定期健診が無料で受けられるネウボラには、フィンランド人のみならず、フィンランド在住でフィンランドの社会保障を受ける権利を保持している女性で妊娠の予兆がある人や養子を迎えて親になる人たちが訪れます。
ネウボラ(neuvola)は、できればVの字どおりに「ネウヴォラ」と発音/表記していただきたいのですが、日本では厚労省が、このフィンランドをモデルにした妊娠、出産、子育ての包括的支援拠点づくりを奨励しており、東京の品川区や埼玉県の和光市をはじめ、日本全国の市町村でも導入が始まっており、カタカナでは既に「ネウボラ」で定着しています。
細かいことはさておき、フィンランド語で「アドバイス(neuvo)の場(la)」を意味するこの「ネウボラ」には、私たち一家もフィンランドに移住した時7か月だった長男の健診から、次男の出産と、二人がそれぞれ就学するまでお世話になりました。
日本の報道を見てますと、ネウボラは担当制で、母親の妊娠期から子どもが小学校にあがるまで、同じ担当者(通称「ネウボラおばさん」)が、家族全員に対して“継続的なサポート”をするものとされており、それはその通りなのですが、通ってくる妊婦さんも女性なら、ネウボラおばさんも女性であり人間なので、ご本人が妊娠されて産休、育休に入ったり、定年退職という人生の節目も迎えます。
我が家の場合、長男の時にお世話になったネウボラおばさんは、たまたま“おばさん”と呼ぶにも若い人が続きほぼ毎年交代で産休、育休入りでした。次男の妊娠中にお世話になったネウボラおばさんに至っては、既に“おばあさん”だったので、次男の出産後間もなく退職されました。私の腹囲を測ってから記入するまでに何センチか忘れて私に確認するようなことが度々あるような人だったので、定年退職されると聞いたときには、つい夫と「良かったですねぇ(他の人の為にも)!」と心から祝辞を言ってしまいましたが……。
それでも健診のデータは、母子手帳、産後には子どものネウボラ手帳手書きで、ネウボラおばさんが保健センターのデータベースに打ち込むので、これを「継続的なサポートではない」と怒る人はいません。そういうところは、フィンランド人は大らかで寛容です。
ネウボラおばさんには、育児や家庭に関する様々なことも相談できるので、私は次男が生まれて間もなく、長男の育児経験から、「近所の公園に出かけても外国人なので友達が作りにくい」と相談しました。するとタイミング良く、新しくできたばかりの外国人母子向けのコミュニティーセンター(ペルヘケルホ)を紹介してくれました。次男が9か月になってから通うようになったそのセンターには母子で2年半ほどお世話になり、非常に充実した時を過ごしました。
それ以外にも、長男が3歳になる頃に保育園から「自閉症の疑いがある」と指摘された時も、すぐにネウボラが保健センター内の精神科医と言語療法士と運動能力療法士らによる精密検査を予約してくれて、検査結果をまとめて総合的な診断をしてくれました。次男も2歳を過ぎても発話がおかしかったので、健診のさいに打ち明けたところ、すぐに言語療法士と連絡を取ってくれて、診断と療育、さらにヘルシンキ大学付属病院での精密検査へとスムーズにつないでくれました。
このように、問題の早期発見や早期支援のきっかけにもなるネウボラは、医療機関の窓口的な役割も果たしています。さらに、利用者のデータは50年間保存されるため、過去の履歴から親の支援に役立てたり、医療機関や、親からの許可が得られれば教育機関との連携にも活用されたりして、効率的に子どもを支援します。
また最近では、親の精神的支援、父親の育児推進がネウボラの重要な役割となっているそうですですが、少なくとも第一子の産前産後の健診には、家族でネウボラ訪問をするのが一般的なので、以前からもその役割は果たせていると感じます。第一子だというのにネウボラに一緒に来ない父親は世間体が悪く、周りから疑問視、問題視されるなどの社会的プレッシャーもその一助になっているようです。
待合室には、父親の育児参加を訴えるパンフレットや、父と子で遊べるスポーツやワークショップのイベントのお知らせも置いてあり、シングルマザーでもないのに連続して母親だけが子どもと通ってくると、久しぶりに現れた父親に「もっと一緒に来てくれると嬉しいんですけどねぇ」とさりげなく白い目で見てくれるネウボラおばさんは、心強いですよ。日本版のネウボラおばさん達も、日本ではどのような働きをしているのでしょうか。今後の活躍が楽しみですね。
それでは皆さん、Hyvää päivänjatkoa(引き続き良い一日を)!
【参考URL】 「地球はとっても丸い」で、日本生まれの長男とフィンランド生まれの次男の出産体験を比べてつづった『日本とフィンランド産み比べ』 http://chikyumaru.net/chikyudekosodate/cat37/cat38/
「地球はとっても丸い」の『ぺルへケルホ!―フィンランドで移民の私はお母さん―』では、次男と通ったフィンランドの外国人向けコミュニティーセンターでの出来事を好評連載中! http://chikyumaru.net/?cat=153