フィンランドで命がけのキノコ狩り体験
靴家さちこ
サンタクロース村メルマガ読者の皆様、Moi!フィンランド在住ライターの靴家さちこです。ついに車のフロントガラスに霜が降りました。スーパーの店頭にも色とりどりのカボチャが並んでハロウィンのムードが漂うフィンランドですが、それだけではありません。なんといってもサンタクロースの故郷ですからね、ハロウィンコーナーより10倍ぐらい大きなクリスマスの特設コーナーがスーパーのお菓子売り場を陣取っています。ハロウィンなんかどうでもよさそうです。そんな晩秋のフィンランドから、冬になってしまわないうちに秋のキノコ狩り体験記を書き残しておきましょう。
森と湖の国と呼ばれるフィンランドなだけに、秋になって雨が降ってキノコがにょきにょき生える頃にはキノコ狩りをするといえば、もちろんするでしょう、と思われるでしょう。私だって思っていました。フィンランド人ときたら本当に、仕事から帰ってきたら、週末には一回、犬の散歩に、と何かにつけて森に入ります。さらにブルーベリーやラズベリーの季節になればかごやバケツを手に森に出かけます。貴重なビタミン源でもあるので、たくさんとって冷凍庫に保存する人もいます。
フィンランドでは、森に入るのは「万人の権利(Jokamiehenoikeudet)」と認められており、たとえ私有地であったとしても、自由に出入りしてベリーやキノコを採集しても良いことになっています。550万人と少ない人口に日本とほぼ同じ国土面積という規模の国なので、自由に人々が出入りしたところで縄張り争いになるようなことは起こりにくいと考えられており、とはいっても民家には接近しない、勝手に火を起こさないなどの常識も共有されているので、このような大らかな権利が実現しているのです。
14年前にフィンランドに移ってきた時に、義姉が誇らしげにこの権利について説明してくれたのですが、アウトドアとか自然にあまり興味がない私には響かず、あまり意識したことが無かったのですが、キノコ狩りだけは行きたいと思いました……食べ物となると話は別なので。しかもキノコには毒キノコもありますから、地元の植生になじみがない外国人としては、もう是非地元の人に連れて行ってもらいたいと思っていたわけですよ。ところが元夫はキノコ嫌い、義姉も別にそれほど好きでもない、フィンランド人のウォーキング仲間でさえも「万が一毒キノコを採取してしまったら怖いからキノコ狩りはしない」というではありませんか。
それでも行きたがって秋になるとキノコ狩りの手ほどき書やキノコ特集の雑誌を買ってきては出かけようとする私に、元夫も義姉も「誰かエキスパートに連れて行ってもらいなさい」と助言はするものの、そのエキスパートとは誰かというところで白羽の矢が当たったのが義姉の夫、つまり義兄だったわけなのですが、その彼とこの秋こそキノコ狩りに行く話が盛り上がっていた矢先に、義兄は突然死で亡くなってしまったのでした。
それ以来封印していた私のキノコ狩り熱でしたが、一昨年初めて、フィンランド語会話クラブの先生が森に連れて行ってくれた時に再燃ました。先生も私と同じようなキノコ狩りのミニガイドブックを片手にやや適当に収穫していたので、もう一人でも行くしかないと思いました。その年は雨が降らない秋だったので、結局そのキノコ狩りも収穫はほとんどなく、空ぶりに終わったのですが、今年はほどよく雨が降っては晴れるお天気が続いたので、もう本当に行くしかないと思いました。
とはいえ、以前 貧しい移民が森でキノコ狩りをして毒キノコで中毒を起こして病院に搬送されたニュースを見たことがあるので、心臓はバクバクです。離婚してキノコ反対派の元夫を気にする必要が無くなったとはいえ、今度はシングルマザーなので子ども達を残して死ねません。長男はいろいろな食べ物を積極的に試してみるタイプなのでキノコも食べますが、次男もアンチキノコ派なので、子ども達まで連れて森に行かないとしても、収穫物を食べさせないとしても、万が一間違えて私が中毒→病院騒ぎを起こしたり、最悪死んでしまったら申し訳ない。
小さなバスケットとキノコガイドブックにナイフを持っていざ森に出てきたものの、緊張して体がこわばり、ぎこちない歩き方をしていました。しかしさすがに十分雨が降ってお日様を浴びた後の森なだけあって、あちこちにキノコがもこもこと生えているではありませんか。ぐりとぐらではありませんが、クリームで煮てやろうかな、バターで炒めて醤油をたらそうかななどと妄想だけ膨らませながら、スーパーでも市場でも見たことが無いいろいろな種類のキノコを目の前に、私は一つ一つしゃがみこんでガイドブックの写真と比べながら、本当に食べられるのかどうなのか調べました。そんな怪しい私の後ろから散歩に来た犬が吠えて、こっちも大声を出してしまったり、みっともないことこの上なかったです。
かくして、森の中で厳選したほんのわずかな戦利品を、家の中でも再度ネットでも綿密に調べてみたら、ガイドブックによると「あまり美味しくないけど」「ゆでれば食べられる」という条件付きで食べられそうだと判断していたキノコが、どうやらそれによく似た種類の毒キノコであるらしいことが判明。台所でもう一回大声を出してしまいました。
最終的に本当に食べられたのはなんと一個だけ。それもちょっと怖くて、バターでじっくり炒めてしまったので、バターの味にほんのりキノコの香りがした程度だという。現実は甘くはありませんでした。というわけで、来年はエキスパートの元に修行に参ります!それでは皆様「Hyvää syksyn jatkoa(ヒュヴァー・シュクシュンヤッコア=良い秋の続きを)!」