サンタクロース村<サンタクロースからの手紙>

サンタクロース村通信

【認知症ホーム 実習日記 】

フィンランドで迎える老後について考える

靴家さちこ

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サンタクロース村メルマガ読者の皆様、Moi!フィンランド在住ライターの靴家さちこです。気温が15度、13度と下がって冷たい雨も降り、リンゴの季節も終盤を迎えています。雨上がりのみずみずしい葉っぱもそろそろ色づいてきて、黄金色の秋がもうそこまで来ています。とはいっても8月から新学期が始まってちょうど一か月。日本の五月病みたいな感じでもあり、もう一か月後に迫った秋休みが生きがいです。そんなフィンランドから、今回は認知症老人ホームで実習した日々のことをふり返ってお伝えします。

180912-0003まず「老人ホームで実習ってどういうこと?」と思われた読者の方のために説明しておきますと、私が2017年から通い始めた「ラヒホイタヤ資格養成コース」では、成人教育の場合は2年のうち1年目に、保育、介護、障害者ケアの3部門を学びます。「ラヒホイタヤ」というのは福祉の総合資格で、前述の3部門以外にも歯科衛生やフットケア、学童保育の指導員などと幅広い職場での活躍が見込まれる、准看護師のような職種のことです。

実習先は学生が自力で見つけてくるのですが、自分の身内も含めて高齢者ケアに関わった経験もない外国人の私でも、2件ぐらい当たってあっさり決まってしまい、拍子抜けしました。採用の決め手は私が「日本人だから」だそうで、年配者を敬い、家族で手厚く面倒を見るイメージを受けたそうです。監督員は同い年のフィンランド人女性でしたが、ラヒホイタヤ歴20年のベテランで、7人のおばあさんのお手洗い、シャワー、着替え、食事、投薬、備品の補充と記録作業をこの世のものとは思えない速さでこなしながら、私に指導してくれました。

180912-0004フィンランドの高齢者は、自宅で自立した生活を可能な限り続けることを希望するので、このようなホームの入居者は、日常生活の継続がかなり難しい状態にあります。初日から最初の1週間担当した班はホームの中でも状態が良い人達でしたが、6週間続いた実習のうちほとんどを過ごした他の班にはそれぞれ10人の入居者がおり、介護士2~3人が組んで担当していましたが、「ホイタヤッ、ホーイタヤッ(介護士、介護士さーん)」と呼び続ける人達や、突然「アプアーーー(助けてーーー)!」と叫ぶ人、食堂のテーブルを車椅子に乗ったまま怒りながら体当たりで配置換えしてしまう方もいて、まさに別世界でした。

ホームの一日は朝7時頃から入居者の皆さんを起こす、あるいはもうすでに起きている人の洗面、トイレ、着替えのお手伝と朝ご飯、入浴、昼ご飯、昼寝、おやつ、午後の活動、夕ご飯、着替え、19時半ごろからお夜食を支給し、寝る支度ができた人から順次就寝という具合です。食事はグループごとに一緒に食堂で済ませますが、入居者それぞれのリズムに合わせて順番に対応していくので、施設とはいえ慌ただしい感じはしません。

180912-0002とはいえ相手は人なので、シャワーに入りたくない、ご飯を食べたくない、おむつを取り替えたくないといったことで、機嫌を損ねて二人や三人がかりで対応しなくてはならない時もあります。一番困ったのが「家に帰りたい」とごねられた時。子どもの自分の親に対する扶養義務が無いフィンランドでも、まだ高齢者が自宅ケアでしのいでいるうちは身内がよく通ってきますが、このような施設に入って記憶があいまいになり、脳の変化が人格すら変えてゆくプロセスを見守るのは辛く、見舞い訪問の回数は減っていきます。入居者は施設が自分の家でないことぐらい承知しており、シフトが終わり私服に着替えた私を見ると「あなたには帰る家があるのね」「あなたはここで仕事しているんだもの」と羨望をあらわにするので、帰るときは手早く済ませるようにしました。

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たかだか6週間でしたが、そんなに短い期間でも身体機能が衰えていく人、衰弱していく人の様子もわかってしまいます。同じく実習で他の施設に通っていた学友は、担当していたおばあさんが亡くなってしまい、最後にメッセージを受け取った携帯電話を握りしめて呆然としてしまったそうです。保育園の実習とは違い、介護実習期間の実習生たちは今までになく「死」と隣り合わせになるので、人相が変わります。私も気を緩めると涙がボタボタ落ちてくるような日々の連続でした。

180912-0006しかし人とは慣れることもできる生き物なので、私は日々人生の終焉に向かう高齢者たちとそれに動じることなく職務を全うする職場の先輩たちを目の当たりにしながらも、この先フィンランドで老いた自分が施設に入る日のことを思い描くようになっていました。糖尿病でも特別食ではなく、普通の食事におやつまで食べる入居者の方、おやつといえば、シナモンロールとコーヒー。もう歯が弱くて噛み切れない人はシナモンロールをコーヒーに浸して食べさせてあげるのですが、そのシナモンとコーヒーが混ざった香りといったらありません。そして、週に一回のサウナ入浴。シャワー用の車いすに座ったままで、ほかほかの蒸気を浴びた後にビールを飲んでお昼寝……ちょっといいかもしれません。でも、老いてしまってもフィンランド語を忘れないようにしないといけませんね。大丈夫でしょうか私?

180912-0007 四十半ばにしてもう、そんな先のことまで考えつくしてしまった私ですが、実習先の介護士のほとんどがもう遺書を作成済みだというので、そんなに大げさなことでもないようです。それでは皆様「Hyvää syksyä(ヒュヴァー・シュクシュア=良いたび秋を)!」本当にちゃんとした秋が来たら……ですけどね!

 

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